「水戸木くず事件」は、とある業者が無償ないし処理料金を受領して木くずを引き取り、チップを製造・売却していた事案で、チップの原料となる木くずが廃棄物に当たるかが問題となりました。
この事案は、地裁では廃棄物に当たらないと判断され、高裁では廃棄物に当たると判断されています。

1 廃棄物該当性の判断枠組み
地裁と高裁は、ともに「おから事件(最高裁平成11年3月10日)」の判断枠組みを用いて、本事案における木くずの廃棄物該当性を判断しました。

2 木くずの廃棄物該当性
⑴ 第一審裁判所(水戸地裁平成16年1月26日)の判断
地裁は、「おから事件」判決の廃棄物該当性の判断枠組みの考慮要素のうち、「④取引価値」「⑤事業者の意思」について、有償で物を入手したという基準(有償性)は、物が有用なものであったかを認定する上で、明確かつ有効な基準であると認めています。
しかし、本件のように、再生利用を予定する物については、物の受け入れ後に加工販売することを予定しており、受け入れ後の経済活動(再生利用)を無視して、「④取引価値」「⑤事業者の意思」を検討することは、循環型社会に適合しないとし、有償性の基準のみで判断することはできないとしています。
その上で、地裁は、「物に関連する一連の経済活動の中で価値ないし利益があると判断されているか否か」を検討しています。
具体的には、本事案において、木くずは、排出事業者にとっては、処分料金を払わずに済む(もしくは通常より安く済む)ため取引価値があり、引き取り業者にとっても、木くずからチップを製造し販売することが可能であるため取引価値があり、双方にとって取引価値があると認定しています。
そして、第一審裁判所は、本事案における木くずが廃棄物に該当しないと判断しました。
⑵ 控訴審裁判所(東京高裁平成20年5月19日)の判断
控訴審裁判所も、「④取引価値の有無」等の要素を考慮するに当たり、有償性を絶対的な基準とせず、処分に至る一連の取引過程の中で再生という視点を取り入れること自体は肯定しています。
ただし、控訴審裁判所は、廃棄物の適正な処理を図るとの廃棄物処理法の観点との調和より、再生目的物であり「廃棄物」に当たらないと判断されるためには、再生利用が製造事業として確立したものであり継続して行われていることが必要であるとしました。
本事案では、県から保管に関する指導を受けていたこと、火災が発生していたことなどから適切な管理を怠っていたとして、製造事業として確立したものとはいえないと判断し、木くずは「廃棄物」に当たると結論付けています。

3 まとめ
再生目的物の廃棄物該当性の判断においては、循環型社会において再生を促進する観点と、廃棄物の不適切処理を防止する観点の2つの観点の調和を図る必要があります。
控訴審裁判所の「再生利用が製造事業として確立したもの」が具体的にどの程度であるかは明示されていません。
しかし、少なくとも、受け入れ量を管理できる量に制限し、再生するまでの保管、製造体制を整備するなど、不適切処分が行われるおそれのない状態であることは必須であると思います。

「おから事件」(最高裁平成11年3月10日)は、豆腐製製造業者より、豆腐を製造する際に排出される「おから」を肥料の原料とするために引き取っていた事案で、「おから」が廃棄物に当たるかが問題となりました。
地裁、高裁、最高裁ともに、本事案における「おから」は廃棄物に当たると判断しました。

1 廃棄物該当性の判断枠組み
本事案は、「おから」が「産業廃棄物」(廃掃法2条4号)に当たるかが問題となりました。廃掃法施行令2条4号は、食品製造業において原料として使用した植物に係る固形状の「不要物」が廃棄物に当たると定めています(いわゆる、動植物性残さです。)。
最高裁は、この「不要物」について、「自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物」をいうとしました。
そして、「不要物」に当たるかは、「その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である」としています。
そのため、不要物に当たるかの判断に当たっては、①物の客観的性状、②排出状況、③通常の取扱い形態、④取引価値の有無、⑤事業者の意思が考慮されます。
なお、本判決では、各要素の優劣については述べられていません。

2「おから」が廃棄物に当たるかの判断
①物の客観的性状について、「おから」は、非常に腐敗しやすく早急に処理する必要があると認定し、②排出状況については、豆腐製造業者が大量の「おから」を排出していると認定しました。
また、③通常の取扱い形態について、食用などとして有償で取引されて利用されるわずかな量を除き、大部分は無償で牧畜業者等に引き渡されるか、有料で廃棄物処理業者に処理が委託されていると認定しています。
そして、⑤事業者の意思については、本事案において、「おから」を引き取っていた業者が豆腐製造業者から処理料金を徴収していたことを考慮しました。
最高裁は、各要素について以上の検討をした上で、本事案における「おから」が廃棄物に当たると判断した高裁の判断を維持しました。

3 まとめ
本事案において、最高裁が用いた判断枠組みは、その後の裁判例において、廃棄物該当性の判断枠組みとして踏襲されています。
裁判所の判断はあくまで本事案の「おから」が廃棄物に当たると判断したものであり、別の事情の下において「おから」が廃棄物に当たらないと判断される余地はあります。
ただし、そのためには、「おから」を再生利用するための体制を整備した上で、その体制で再生利用可能な範囲での受け入れをするなど、不適正処理が行われるおそれがないといえる状態にする必要があります。

電化製品などによくありますが、新品を購入する際に、使用済み品を下取りに出すことがあります。
新品の販売業者が、使用済み品を有償で下取りする場合、古物の買取行為として、古物営業法上の古物営業の許可が必要とも思えます。
また、使用済み製品を無償で下取りする場合には、廃棄物の引き受けとして、廃掃法上の廃棄物収集運搬の許可が必要とも思えます。

1 古物営業法との関係
この点について、通知(令和4年4月1日付け警察庁丁生企発第199号)において、新品を販売する業者が行なう下取りが、いわゆる「サービス」として行なう値引きとして捉えることができるときは、古物営業に当たらないと解釈されています。
また、「サービス」として行なう値引きといえるかの基準について、①下取りした古物の対価として金銭等を支払うのではなく、販売する新品の本来の売価から一定金額が差し引かれる形であること、②下取りが「サービス」の一環であるという当事者の意思があること、③下取りする個々の古物の市場価格を考慮しないことの各要件を満たす場合には、「サービス」として行う値引きといえるとしています。
使用済み品を査定した上で値引き額を決定するような場合には、下取り対象となる特定の古物の市場価格を考慮しているといえますので、③の要件を満たず、古物営業の許可が必要となります。

2 廃掃法との関係
この点について、通知(平成12年9月29日付け衛産第79号)において、「新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要である」と解釈されています。

3 無許可営業の罰則
前述のとおり、一定の要件を充足する場合には、古物営業法、廃掃法の業の許可を得ずに使用済み品を下取りすることが可能と解釈されています。
他方、要件を充足しない場合には、業の許可が必要になります。
業の許可が必要であるにも関わらず、無許可で下取りを行なった場合、古物営業法ないし廃掃法の罰則の対象となります。
無許可営業の場合、古物営業法は、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金又はその両方(古物営業法31条及び36条)、廃掃法は5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金又はその両方(廃掃法25条)の罰則を定めています。
さらに、無許可営業は業の許可の欠格要件となるため、一定期間、業の許可を取得することができなくなります。

遺産である不動産は、遺産分割により取得者が決定するまで、相続人間の共有状態となります。
共有者である各相続人は、遺産である不動産全体を法定相続分に応じて使用収益する権利を有します。
相続人のひとりが遺産不動産を単独で使用(居住することを含みます。)する場合には、自己の相続分を超える使用について、他の相続人に対し対価を支払うことが必要となる場合もあります。
しかし、相続開始時に亡くなった方の所有する不動産に無償で居住していた配偶者は、一定期間、居住していた不動産に無償で居住することが認められています(民法1037条)。これを配偶者短期居住権といいます。
配偶者短期居住権利によって、配偶者が無償で不動産に居住することができる期間は、配偶者が不動産の遺産分割の当事者となるかにより変わります。
配偶者が不動産の遺産分割の当事者となる場合には、相続開始から6か月、もしくは遺産分割において不動産の取得者が確定してから6か月のいずれか遅い日までの間になります。
他方、配偶者が遺産分割の当事者とならない場合には、建物を取得した者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6か月になります。

金融機関が、口座開設者が亡くなったことを把握すると、亡くなった方名義の預金を凍結します。
そして、亡くなった方の預金は相続人の準共有となるため、相続人全員の合意がない限り、払い戻しを行なうことはできないのが原則です。
ただし、各相続人は、預金債権の3分の1に法定相続分を乗じた額の限度で、単独で、亡くなった方の預金の払い戻しを行なうことが可能です(民法909条の2)。
そのため、相続人は、遺産分割協議前の段階において、一定の限度で、単独で亡くなった方の預金の払い戻しを行なうことが可能です。
相続人が、民法909条の2の規定に基づいて払い戻しを行なった場合、遺産の一部を分割取得したものとして扱われるため、遺産分割における取得分は、払い戻しを行なった分だけ減少します。
なお、相続人の払戻金額が、相続分を超過する場合には、遺産分割において超過分を精算することを要します。

相続放棄は、亡くなった方の財産と債務も一切承継しないこととするための手続きです。
そのため、相続放棄を行なう場合に、亡くなった方の財産を取得することはできません。
しかし、被相続人に多額の債務があるため相続放棄をしたものの、遺産である自宅不動産に居住しており、自宅不動産のみ取得を希望することもあるかと思います。
この場合、相続放棄をした上で、相続財産清算人を選任し、相続財産清算人から特定の財産を買取ることが考えられます。
相続財産清算人とは、相続人がいない亡くなった方の財産を清算する業務を行なう者で、亡くなった方の財産を処分する権限を有します。
相続財産清算人から特定の財産を取得する場合には、相続財産清算人選任の申立て費用や特定の財産の取得するための費用がかかるため、相続する場合と比較して経済的メリットがあるかは慎重に検討する必要があります。
なお、被相続人に多額の債務がある場合、遺産である不動産等に担保が設定されていることが想定されますので、注意が必要です。
また、次順位の相続人がいる場合、相続放棄を行なうと次順位に相続権が移転し、相続財産清算人を選任することができないため、この点も注意を要します。

相続放棄は、亡くなった方の財産と債務も一切承継しないこととするための手続きです。
そのため、相続放棄を行なう場合には、亡くなった方の財産を取得することはできません。
亡くなった方の加入していた保険の保険金を受け取ることができるかは、保険金の性質によって変わります。
相続人が受取人として指定されている死亡保険金は、亡くなった方の財産ではなく、受取人固有の財産と扱われるため、相続放棄をしたとしても受け取ることは可能です。
他方、医療保険の入院給付金など、亡くなった方が受取人となる保険金は、亡くなった方の財産になりますので、相続放棄をする場合には受け取ることはできません。
仮に、亡くなった方の財産を取得してしまうと、単純承認をしたとみなされ、相続放棄をすることができなくなることがありますので注意が必要です。

相続放棄は、亡くなった方の財産と債務を一切承継しないこととするための手続きです。
相続放棄の手続きは、申述書と必要資料(主に相続関係の分かる戸籍等)を取得し、亡くなった方の住所地を管轄する家庭裁判所に提出すれば足りますので、ご自身で行なうことも可能かと思います。
ただし、相続の開始から3ヶ月以上経過した段階で相続放棄の申述を行なう場合には、相続の開始等を知ったことが遅れた事情を裁判所に説明する必要があります。
また、相続関係の分かる戸籍等を揃えるに当たっては、亡くなった方が複数回本籍地を変更している場合や、離婚歴がある場合などには、必要戸籍等の取得に時間を要することもあります。
相続放棄は申述期間の制限がありますので、期間内に必要戸籍を全て取得しなければなりません。
そのため、相続開始から3ヶ月以上経過しており事情の説明が必要な場合や、期間内に戸籍を取得することに不安がある場合には、弁護士に依頼することをお勧めいたします。

遺言書を作成する目的のひとつとして、自身の死後に、相続人間で紛争が発生する防止することが考えられます。
遺言書において、全ての財産の分け方を定めておけば、遺産の分割の方法で紛争が生じるリスクは低くなります。
ただし、相続人には、相続における最低限の取得する持分(遺留分といいます)があります。
遺言書での定めた分割方法によって、相続人の一部が遺留分に満たない財産しか取得することができない場合には、遺留分を害された相続人は、法定相続分を超えて遺産を取得した相続人に対して、遺留分を侵害された分の金銭を請求することが可能です。
例えば、遺言書により、遺産の全てを相続人のひとりに取得させることとした場合には、他の相続人の遺留分を害することが考えられます。
そのため、遺産の分割方法で紛争が生じなかったとしても、遺留分侵害額の請求という形で相続人間の紛争が生じる可能性があります。

遺言書を作成するためには、遺言の内容を把握し、遺言によりどのような効果が発生するかを理解できる能力(遺言能力といいます)が必要です。
認知症に罹患していたとしても、遺言能力が認められる場合には、遺言を作成することはできます。
遺言能力の有無の判断は、遺言書作成者の精神上の障がいの有無・内容・程度だけでなく、遺言書の内容、遺言書作成の動機や遺言書作成に至る経緯等の事情も考慮してなされます。
そのため、遺言書の作成者が認知症であることや認知症の程度のみで遺言能力の有無が決するわけではありません。
例えば、遺言の内容が複雑な場合にはより高度な能力が要求されます。
遺言者の作成者が遺言当時に認知症であった場合、相続開始後に遺言能力の有無が問題とされることは少なくありません。
そこで、認知症に罹患された方が遺言書を作成する場合は、証人の立会いを要する公正証書遺言の方式を用いる必要性が高いといえます。
また、遺言の内容は簡単なものにした方が、遺言能力が無効とされるリスクを低減することができます。
そして、遺言を作成することとした経緯や動機を遺言書の付言事項として記載することで、遺言能力があったこと示す事情となることもあります。