むち打ち損傷に起因する神経症状が後遺障害に認定されると、後遺障害逸失利益を請求することができます。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残存し労働能力が制限されることによる、将来にわたる減収分の損害をいいます。
後遺障害は、一般的には、永久的に残存するものとされるため、後遺障害逸失利益の算定において減収を考慮する期間(労働能力喪失期間といいます)は、症状固定時から就労可能年数までの期間とされます。
しかし、むち打ち損傷に起因する神経症状は永久的に残存することが明確といえないことが多くあります。
そこで、実務上、むち打ちに起因する神経症状の後遺障害については、労働能力喪失期間を制限して、損害を算定しています。
むち打ち損傷に起因する神経症状は、12級もしくは14級の後遺障害に認定される可能性があります。
裁判例では、12級の場合に労働能力喪失期間を10年程度に制限し、14級の場合に5年程度に制限する例が多いとされています。

症状固定時に傷害が残存し、これが後遺障害に認定された場合は、後遺障害逸失利益を請求することができます。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残存し労働能力が制限されることによる、将来にわたる減収分の損害をいいます。
後遺障害逸失利益を計算する上で、後遺障害により労働能力がどの程度制限されるか(労働能力喪失率といいます)は、実務上、後遺障害の労災補償のための通達記載の喪失率を用いることが多いです。
通達記載の喪失率は、後遺障害等級が14級の場合の労働能力喪失率5%、12級の場合に14%という形で、等級ごとに一律に定められています。
しかし、裁判手続きでは、個別性が重視されるため、被害者の職業や障害の具体的状況等から、通達記載の喪失率以上の減収が生じる場合には、通達記載の喪失率より高い喪失率により後遺障害逸失利益を算定することが認められることもあります。
通達記載の喪失率を超える喪失率を主張する場合には、職業の具体的内容や障害によりどの程度就労が制限されるか、就労の制限によりどの程度の減収が生じるかを具体的に説明する必要があります。

事故により就労が困難になり、その結果収入が減少した場合には、休業損害として請求することができます。
事故による休業期間の一部について、有給休暇を取得することがあります。
有給休暇を取得すると、有給休暇取得日の給与は支払われるため、減収は生じておらず、休業損害を請求することができないようにも思えます。
しかし、交通事故の治療等のため休業する必要がなければ、有給休暇を取得することなかったといえます。
そのため、休業期間の一部に有給休暇を取得した場合には、交通事故によって、有給休暇を取得する権利を失ったといえます。
実務上は、多くのケースで、有給休暇を取得した日を休業期間に含めて休業損害を算定することが認められいます。

事故により車両が破損し、修理することが可能な場合には、修理費用が損害として認められます。
破損が軽微であり修理をしなくても使用可能であれば、修理しないと判断することもあり得ます。
この場合、修理を行なわなくても修理費用相当の損害を請求することができるかという問題があります。
この点について、車両が破損し損害が発生している以上、修理をするか否かに関わらず、修理費用相当額が損害として認められます。
損害とする修理費用相当額は、修理工場と保険会社のアジャスターが合意する協定金額とします。
ただし、協定金額を損害額として示談をした後に、実際に修理を行なったところ、協定金額よりも高額の修理費用が発生したとしても、改めて修理費用を請求することはできないため注意が必要です。

修理によって車両が修復したとしても、修理したこと自体が車両の評価に影響することがあります。この車両の評価が低下することの損害を評価損といいます。
評価損が認められるかは、被害車両の車種、損傷の部位・程度、初年度登録からの期間、走行距離などを考慮して判断されます。
一般的には、高価な車種であり、損傷の程度が大きく、初年度登録からの期間が短く、走行距離が少ない方が評価損は認められやすい傾向にあります。
また、損傷の程度については、自動車競争公正規約第11条により、中古車の販売に当たり、車両の骨格に当たる部位の修復歴の表示が義務付けられていることから、骨格部位の修復は市場価値が低下する可能性が高く、評価損が認められやすい傾向にあります。
なお、裁判例などから、修理費用の一部(10%~20%程度)が損害額の目安になると考えられます。

修理や買替えなどにより代車の使用を要する場合、一定期間の代車費用は損害として認められます。
車両を修理する場合の代車の使用期間は、修理費用が決まるまでの期間+修理に要する期間とされ、修理に要する期間は通常1~2週間程度とされることが多いです。
ただし、実際の修理期間が1~2週間を超過する場合に、修理期間が長期化することについて合理的な理由があれば、代車の使用期間も延長することができることもあります。
修理期間が長期化する合理的な理由としては、修理部品の取り寄せに時間がかかることなどが考えられます。
他方、事故車両が経済的全損とされる場合の代車の使用期間は、修理費用が決まるまでの期間+買替えに相当な期間が代車使用期間とされ、買替えに相当な期間は1ケ月程度とされています。

専業主婦は現実に収入を得ていませんが、交通事故により負傷して家事に従事することができなかった場合には、休業損害(主婦休損)を請求することができることがあります。
ただし、主婦休損を請求するためには、家事に従事することができなかったことを証明する必要があります。
入院していた場合には家事に従事することができなかったといえますが、そうでない場合には、痛みを我慢して家事を行なわざるを得ないことも多く、家事に従事することができなかったことを証明することは容易ではありません。
また、主婦休損の損害額の計算では、実際に収入を得ていないため、基礎収入をどのように算出するかという問題もあります。
実務上は、女性労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とすることを基本とし、年齢や家族構成、従前の家事内容等に照らして必要に応じて修正がされています。
主婦がアルバイトをしており収入がある場合であっても、アルバイト収入額が平均賃金に達していない場合には、基本的に平均賃金を基礎収入とします。
主婦休損は、家事の一部に従事することができないケースも多く、家事従事が制限された程度や回復経過を考慮して、個別的に算定することを要します。

交通事故により負傷し、整形外科、整骨院に通院を要した場合、治療費、施術費、通院交通費等の実費のほかに傷害慰謝料を請求することができます。
交通事故事件における傷害慰謝料は、通院期間の長さによって金額の基準が設けられています。
例えば、赤本基準(過去の裁判例の基に作成された基準)では、むち打ちの場合、2か月の通院では36万円であるのに対し、6か月の通院では89万円になります。
通院がどれくらい期間必要であるかは怪我の内容によって異なります。
また、通院を要する期間などの治療の方針は医師が判断します。
医師が症状固定との判断をする前に通院を辞めてしまうと、十分な治療を受けることができないという不利益に加え、請求できる傷害慰謝料の金額が減額するという不利益も生じます。
そのため、適切な賠償金の支払いを受けるためには、医師が治療の継続を要すると判断する期間は、可能な限り通院を継続することが必要です。

「徳島木くずボイラー事件」(徳島地裁平成19年12月21日)は、自社で排出した木くずをボイラーで燃焼し、熱源としていた事案で、熱源としていた木くずが廃棄物に当たるかが問題となりました。
裁判所は、本事案の木くずは廃棄物に該当しないと判断しています。

1 廃棄物該当性の判断枠組み
裁判所は、「おから事件(最高裁平成11年3月10日)」の判断枠組みを用いて、本事案における木くずの廃棄物該当性を判断しました。また、「おから事件」の判断枠組みで示されている各要素を検討する際の観点を詳しく述べています。
裁判所が言及した観点は以下のとおりです。
①物の客観的性状を検討する際の観点
「物が利用用途に要求される品質を満足し、かつ飛散、流出、悪臭の発生等の生活環境保全上の支障が発生するおそれのないものであるか否か」
②排出状況を検討する際の観点
「物の排出が需要に沿った計画的なものであり、排出前に適切な保管や品質管理がなされているものであるか否か」
③通常の取扱い形態及び、④取引価値の有無を検討する際の観点
「排出事業者が自ら利用する場合以外の場合には、製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないものであるか否か」
「物が占有者と相手方の間で有償譲渡がなされており、当該取引に客観的合理性があるものと認められるか否か」
⑤事業者の意思を検討する際の観点
「客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る事業者の意思として、適切に利用若しくは他社に有償譲渡する意思が認められる、又は放置・処分の意思が認められないものであるか否か」

2 木くずの廃棄物該当性
裁判所は、各要素について以下の事情を認定し、本事例における木くずは廃棄物に該当しないと判断しました。
①物の客観的性状について、実際に熱源として利用できていることから、本事案の木くずは燃料として利用されるべき品質を備えているとしました。
②排出状況については、木くずは、常に一定量発生するものではない(発生量を調整することはできない)が、事業において生じる副産物であるため当然であるとしています。また、常時発生することを前提に設備を整備していることから、需要に沿った計画的な排出といえるとしています。
③通常の取扱い形態及び、④取引価値については、自ら再生利用を行なう事案であり、有償譲渡の実績や市場形成は必要でないとしました。また、自社内で木くずを熱源とすることについて廃掃法の規制対象としていない実例があることも考慮しています。
⑤事業者の意思
処分費用の軽減する意図があったことは認定していますが、これによって木くずを処分する意思があったとはいえないとしており、木くずを適切に利用する意思を認めました。

3 まとめ
本事案の特徴は、自社内で木くずを再生利用したことにあります。
再生利用物を売却することを前提としている場合には、再生・売却までの一連の経済活動を考慮して、「④取引価値」の有無を判断します(参考「水戸木くず事件」)。
自社内での再生利用の場合は、再生品の売却という経済活動は予定されていませんが、適切に再生利用する意思があり、再生利用するため体制が整備されていること等を考慮し、廃棄物に該当しないと判断したものといえます。
再生目的物の場合、再生するための体制を整備することができているかは非常に重要な考慮要素です。再生目的で引受け、保管していたとしても、保管状況が杜撰であり、不適切処理が行われるおそれがあると判断される場合には、廃棄物であると判断される可能性は高くなります。

誠に勝手ながら、足利事務所、高崎事務所は、以下の日を休業とさせていただきます。

ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

令和7年5月3日(土曜日)から令和7年5月6日(火曜日) (カレンダーどおりとなります)