清水 恒一のブログ
再生目的物の廃棄物該当性②(「水戸木くず事件」)
2025年04月28日

「水戸木くず事件」は、とある業者が無償ないし処理料金を受領して木くずを引き取り、チップを製造・売却していた事案で、チップの原料となる木くずが廃棄物に当たるかが問題となりました。
この事案は、地裁では廃棄物に当たらないと判断され、高裁では廃棄物に当たると判断されています。

1 廃棄物該当性の判断枠組み
地裁と高裁は、ともに「おから事件(最高裁平成11年3月10日)」の判断枠組みを用いて、本事案における木くずの廃棄物該当性を判断しました。

2 木くずの廃棄物該当性
⑴ 第一審裁判所(水戸地裁平成16年1月26日)の判断
地裁は、「おから事件」判決の廃棄物該当性の判断枠組みの考慮要素のうち、「④取引価値」「⑤事業者の意思」について、有償で物を入手したという基準(有償性)は、物が有用なものであったかを認定する上で、明確かつ有効な基準であると認めています。
しかし、本件のように、再生利用を予定する物については、物の受け入れ後に加工販売することを予定しており、受け入れ後の経済活動(再生利用)を無視して、「④取引価値」「⑤事業者の意思」を検討することは、循環型社会に適合しないとし、有償性の基準のみで判断することはできないとしています。
その上で、地裁は、「物に関連する一連の経済活動の中で価値ないし利益があると判断されているか否か」を検討しています。
具体的には、本事案において、木くずは、排出事業者にとっては、処分料金を払わずに済む(もしくは通常より安く済む)ため取引価値があり、引き取り業者にとっても、木くずからチップを製造し販売することが可能であるため取引価値があり、双方にとって取引価値があると認定しています。
そして、第一審裁判所は、本事案における木くずが廃棄物に該当しないと判断しました。
⑵ 控訴審裁判所(東京高裁平成20年5月19日)の判断
控訴審裁判所も、「④取引価値の有無」等の要素を考慮するに当たり、有償性を絶対的な基準とせず、処分に至る一連の取引過程の中で再生という視点を取り入れること自体は肯定しています。
ただし、控訴審裁判所は、廃棄物の適正な処理を図るとの廃棄物処理法の観点との調和より、再生目的物であり「廃棄物」に当たらないと判断されるためには、再生利用が製造事業として確立したものであり継続して行われていることが必要であるとしました。
本事案では、県から保管に関する指導を受けていたこと、火災が発生していたことなどから適切な管理を怠っていたとして、製造事業として確立したものとはいえないと判断し、木くずは「廃棄物」に当たると結論付けています。

3 まとめ
再生目的物の廃棄物該当性の判断においては、循環型社会において再生を促進する観点と、廃棄物の不適切処理を防止する観点の2つの観点の調和を図る必要があります。
控訴審裁判所の「再生利用が製造事業として確立したもの」が具体的にどの程度であるかは明示されていません。
しかし、少なくとも、受け入れ量を管理できる量に制限し、再生するまでの保管、製造体制を整備するなど、不適切処分が行われるおそれのない状態であることは必須であると思います。